対談インタビュー

―――まずは「ピュアのコンセプト」は?―――

下川直哉(以下/下川):単純に、“音がずば抜けていいものをオーディオファイラーに向けて”というのが1つと、僕たちが作っている音楽に慣れ親しんでいる人たちに、いい環境で聴けるような最高の音とトッププレイヤーの演奏を知ってもらいたいというのがあります。
僕自身オーディオが好きなので、いちオーディオオタクとして言わせて頂くと、結局SACDのような音質がいいソフトはクラシックやジャズなどが多く、一般的なポップスは少ない。しかし、高音質を求めているリスナー皆が、クラシックやジャズばかりを聴きたい訳ではないと思うんです。もっと自分にとって身近なサウンドでいいものを聴きたい人は多いと思っています(私がそうです)。そんな中で一つのジャンルとしてアニメ・ゲームサウンドの分野のリファレンスになれるようなものが創りたかった。

―――Pureのアレンジをエレメンツガーデン(以下/EG)さんに依頼した理由は?―――

下川:まず編曲に関して重要だったのが、“オレら音楽をプロでやってるぜ”という方ではなくゲームやアニメのBGM・主題歌をメインで手掛けていることが前提でした。それは、同じ世界で戦っている人ならば色眼鏡で見ずに僕たちと同じ目線で言葉を交わせ、熱意を受け止めてくれると思ったからです。それプラス編曲クオリティーが揃っていないとダメという意味では、かなり敷居が高かったと思います。EGはまさにそれらの条件全てをクリアしているこの業界にとって貴重な存在だと思いました。

上松範康(以下/上松):今回のコンセプトでハイクオリティーというのは、EG立ち上げ当初から1番大事にしているところで、お話を頂いてすぐに“ピントが合った”と感じました。もちろんそれに応えていきたいので、「どんな話なんだろ?」と最初ドキドキしてお会いしたんですけど、求めているところのレベルの高さにまず驚きましたね。
それからSACDはEGではやった事がなかったのですが、興味はありました。そこにこの話がきたんです。 それもこのゲームやアニメ業界で! 目指している音楽の“同志”がいることにすごく感動しましたね。それで“これは挑戦だな”と思い、お互いの切磋琢磨も含め、クオリティーの高いところで出し惜しみなくやってみようと。

下川:失礼な言いようですが、“リスナーさんの耳を肥やしたいね”という話を上松さんとし、共感しました。アニメやゲームといった業界のファンの方たちの中には音質や環境に拘る人がたくさんいます。だがそれに伴う作品がない。ならばそのポジションに見合う物を提供せねば、という思いでしたね。まさしくリファレンスを作る思いを込めてます。
でも高級なオーディオ機材を購入しろと言っているわけではありません。奮発してちょっといいヘッドフォンと、貴重な時間のほんの少しを割いて聴いてもらえるといいなと。それを踏まえてアレンジは、やや特殊で音数が少ないという印象になるかもしれません。シンプルに出来るものはシンプルに、歌曲でもコーラスを入れずに歌1本でとか、「生の良さ」「個々の奏者の良さ」というのを全開に押し出す編曲にして欲しいとお願いしました。

上松:編曲側からすれば音数を減らすというのは、自分の武器をどんどん減らして戦いに臨むようなものでドキドキするんですね。でも、武器を減らしてでも純粋に戦いぬく! 歌い手を含め、奏者全員が主役たるよう楽器は限りなく少なくし、勇気をもってやってみました。結果それがすごくプラスに働いてるんじゃないかなと思っています。

下川:主観ですが、聴き飽きないサウンドというのは、音源の表情が刻一刻と変化しているからだと思うんです。まさに生楽器がそれです。いいのはわかってはいるのですが、それはあくまでもいいプレイヤーがいて成り立つわけです。しかし、商業には色々と(予算やスケジュールなど)大人の事情がありまして、いいプレイヤーを使うことが出来ない。ならば、打ち込みの方がはるかにクォリティーを維持できるのです。
では、“何故今回のような企画ができるのか?”とお思いでしょうけど、簡単です。技術向上やセンスを磨くためには、時に多少の犠牲はつき物であるということです。要するに、“採算を考えてやっていられない企画”と言うのも必要なわけです(笑)
そんなわけで、ミュージシャンはもちろんエンジニアも選び抜いた精鋭で作ったので、面白いものに仕上がってると思います。
垣根を越えて、できれば「何がゲーム音楽じゃ!」って思ってる人たちにも聴いて欲しい。まちがいなく最高峰の音質だと思えるはずです。

上松:お願いしてるミュージシャンも日本で3本指に入る方ばっかり! ほんとにそこがJ-POPへというか、音楽への挑戦でもあるんじゃないかな。

下川:今のポップスは(全てではないですが)、ノリ一発でファッションリーダー的存在のサウンドがウケるものが多い感じで。
そういった面でオーディオ好きの人たちにとってあまり面白くない時代というか…。「もう一度ゆっくりオーディオ聴いてみません?」的なCDがゲーム・アニメ系のサウンドから現れて、それに続いてみんなが挑戦的な事をやって欲しいと願っています。確かに予算もかかるし大変だけど、めげずにいいものを追求してほしい。(私がそのCDを買いますよ)

―――そういった過程の中で苦労した点は?―――

上松:先程も言いましたが、奏者の良さを引き出すために、音数を限りなく少なくしたところが挑戦だったと思います。ちょっとマニアックな部分なんですが、1つの楽器で低音と中域と高域、全部をまかなえるか、といったらそうではない。でも、その楽器の特性を知ってさえいれば、少ない楽器でまかなっても楽曲の良さを引き出すことができます。そこが技術のいる部分ですね(編曲者泣かせ)。一番苦労した点は、なんといっても弦アレンジ。すごくクラシカルな要素も含んでいないと、今回のアレンジは難しいんです。ポップスの方の知識だけじゃ弱冠難しいのです。しかし、EGを選んで頂いたので、「そこもできるぜ、ウチらは!」というところを絶対見せたかった。ある意味そこが挑戦であり追求なので、苦労と楽しさは背中合わせということで(笑)

―――レコーディングで面白かった点は?―――

上松:“ミュージシャンがほぼ40代後半!”世の中のトッププレイヤーって40代、50代入ってる人たちが多く、日本の音楽を支えてきた人たちです。その人たちの演奏を目の当たりにできたことは、今回の「Pure」の企画で“感謝”したいところですね。これでまた、EGの中でも求めるレベルが高くなってしまったので、これを超えるために何をやっていくか、それは大変ではあるけど、これから面白いんじゃないかと思っています。

下川:“皆誰かが道を作るのを待ってる”というのがありますよね。“AQUAPLUS LEGEND OF ACOUSTICS”と大層なタイトルがついてるけど、これは“アクアプラスの伝説が始まるぜ!”じゃなく、“アクアプラスがとりあえず伝説の口火を切る!”これからゲーム・アニメ業界が、こういうトップアーティストの人たちと一緒に、音楽を作っていけたらいいな的な願いが乗った呪文のようなものです(笑)
格好つけずに言うと、「いいやん、アニソンでも!すっごくイイ音あるから!」となって欲しいわけです。僕たちが創っているBGM・主題歌は、映像や物語がついているので、キャラクター達や感動的なシーンを脳裏に刻みやすい。だからこそ、その思い出のために色褪せないサウンドと音質を残したい。 ゆっくりと椅子に座って、1日に1時間でも30分でもいい、目をつぶって聴いてくれたらいいなと思いますね。

上松:いいですね~!

下川:リスナーの皆に自分が知っている“いいもの”を知ってほしいと思うじゃないですか! 音楽にどっぷり染まった人間からの押し付けかな~。

上松:そりゃまぁ、決してポップスが悪いというわけじゃなく、次のステップという意味で“先”というのがまだあるんだよ、と。そこに希望をもって、また新しい楽しみだと思ってほしいな。

―――アクアプラスとして、外部の音楽チームと仕事することは初めてで珍しい事では?―――

下川:簡単に言うと、AQUAPLUSにはない新しい雰囲気がほしかった。そして僕らが納得できる編曲レベルだったから。
個人的は、内部でやるアレンジは聴き慣れてるから、僕らも1人のリスナーとして聴けるものをほしかった。EGにしても、多分ですけど作・編曲メインなので、他人が作った曲をベースにアレンジをすることで、自分たちでは出ないもしくはださないメロディーっていうものがあると思うのです。それが個性ですからね。お互いに自分たちが客として聴けるようなものを仕上げるには、内部でだけでは面白くはならなかったんじゃないかな。

上松:まさしくそこが、下川さんに先導してもらったなと感じるところで。ウチはすごくこだわりが強く作曲含め、って思ってたんですけど、それは今回のことで“エゴだったな”と感じています。やっぱり、いいメロディーがあるなら、いいアレンジをという作家魂が燃えましたね。だから本当にいいメロディーに対して、いいアレンジで絶対返そうっていう気持ちが生まれました。

下川:いい意味もあるのですが、閉鎖的にやってきた製作スタイルだったので、今回すごく勉強にはなりました。皆でEGのデモがあがってきた時に、「お! やっぱりウチにはないなぁ。これは絶対ウチがしないなぁ」とかいいつつ、「こんな感じのアレンジもやろう!」「こういう音づかい好きやなぁ」みたいな感じで刺激があったので、お互いにいい結果になったんじゃないかなと思ってます。

―――聴きどころは?―――

上松:楽器ですね。今回弦とかオーソドックスなものに加えて、もう少しアプローチしたかったのは民族楽器や日本古来の楽器だったりします。国境を越えた音にも挑戦してみようと、笛でいえば“篠笛”や“ケーナ”を使って、よりオリエンタルな雰囲気を出したり、また“二胡”なども使い、楽曲の世界観を表現したいとおもいました。せっかくのチャンスなので、是非そういった楽器の個々の音を聴いて歴史を感じてもらいたい。

下川:上松さんが全部言ってくれているので、私はあまりないけど(笑)
まさしくタイトルどおり“Pure”なので、じっくりと神経研ぎ澄ませて1曲1曲ゆっくり聴いて欲しいな、と。聴きどころというよりは“聴き方”を伝えたいかな。ながらで聴くのもいいけど、一度神経を耳だけに集中して聴いてみて欲しい。そうすれば、演奏者の姿が見えてるはず! 間違いなく! そのクラスまでいっています!! Suaraも目の前であなたのためだけに歌っているように聞こえます。特にSACDを聴ける環境をもってる人は、神がみえますよ(笑)
※注) 怪しい宗教ではありません

―――最後にファンの方へメッセージを―――

下川:おそらくゲーム・アニメサウンドっていう歴史に、一つ形をつくることのできるアルバムにはなったと思います。まさに歴史的瞬間!!

上松:アクアプラスにしてもEGにしても、進化し続けています。これからも進化し続けていきたいという願いを込めたCDなので、是非買って聴いて下さい。

下川:評判がよかったら第2弾、Pure IIやりたいですよね。何かの形で。その時には、EGの楽曲も入れたいですね。

上松:嬉しいですね~

下川:混合ミックスで、ウチ半分、エレメンツ半分で!

上松:!!!


追伸
このアルバムがいい音で聞こえない、なんか薄っぺらい、篭っている、高音が痛い、などの場合はまず間違いなくあなたの環境、もしくはあなたの耳がヤバイです!!(笑) これは言い切ります、誰が何と言おうと言い切ります!! ビッグマウスですが(本当はビクビクしてます)ほんとにいい環境なのかどうかのチェックにも使えるほど面白いアルバムになってますよ。一人でも多くの人がこのアルバムで感動できるよう願っています。
下川直哉

プロフィール

■上松 範康(Noriyasu Agematsu)
音楽製作ブランド“Elements Garden”代表・プロデューサー。
デジタル・アナログを問わないオールラウンドコンポーザーとしての高い技術は、今回のアコースティックアルバムというコンセプト内にも如何なく発揮されている。
代表作:水樹奈々「ETERNAL BLAZE」ほか

■下川 直哉(Naoya Shimokawa)
AQUAPLUSを束ねるプロデューサー。
自身もサウンドクリエイターとして数多くの楽曲を手がける。