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『Pure3 Feel Classics -Naoya Shimokawa-』Web限定特別解説

2017年4月26日に発売した『Pure3 Feel Classics -Naoya Shimokawa-』プロデューサー下川直哉による全曲解説です。文章中に出てくる定位マップ(ミックス時の楽器の位置のイメージを表したもの)はこちらをご覧ください。

 
まず、録音したのが2012年夏と2013年夏ということで、もう記憶が・・・(笑)。音源を聴きながらその時のことを少しずつ思い出しながらお話します。
 
01 Feeling Heart
「Feeling Heart」は、今回Tr.01とTr.12の二つの音源があるのですが、これはオンマイクとオフマイク、いわゆる音源に近いマイク(オンマイク)と音源に遠いマイク(オフマイク)の2つのミックス度合いが違います。つまり、ホールの響き感を重視するのか、それともドライでダイレクトな音を楽しんでもらうのかということで、最後までどちらを収録しようか悩んでいたのですが、皆さんに聴き比べてもらえたらと思い、両方収録することにしました。楽しんでくれればいいなぁと。Tr.01がオフマイク中心で、Tr.12がオンマイク中心のミックスになります。
 思いのほか「Feeling Heart」はこの構成のアレンジで、Pure3の楽曲の中で一番クラシック風に感じますよね。ここは小林俊太郎さんのアレンジのうまさだと思いますが、モーツアルトのように聞こえる部分があって面白いなと思いました。意外とクラシックな感じのサウンドに仕上がるなと。実は「Feeling Heart」はあまり自分の中ではそこまで気に入っているサウンドではなかったのだけれど、このアレンジでは聴いていて楽しいなって思いました。
 
02 心はいつもあなたのそばに
これはTr.01の「Feeling Heart」よりも少しオンマイクが強めになっているのかな。でも同じホールの音がしていますよね。若干違いがあるとしたら、こちらは「Feeling Heart」の1年後に収録したこともあって録音機材が新しくなっているので、違いが若干出ているかもしれません。こっちの曲の方が解像度が少し高いのではないかなと思います。
もともとPure3用にレコーディングした楽曲で、TVアニメ『WHITE ALBUM2』で使う予定はなかったのですが、音楽監督をさせていただいたので、冬馬かずさの回想シーンで使ってみました。弦の音って耳触りが良くて綺麗なんですよね。シーンに合っていたんじゃないかなと思います。アニメの影響だと思うのですが、この曲を聴くと雨の印象が強いんですよね(笑)。

オーディオファイラーの方々にとって、このPure3は面白い部分もたくさんあると思います。ただ少ない楽器で構成している分、音同士の分離はよく聞こえるのですが、人によってはポップスではないので、ちょっと退屈に感じる可能性もあります。まぁ、これ聴きながら眠りについていただく感じで。眠った頃に「Free and Dream」で叩き起こされますけど(笑)。
 
03 ありがとう
この曲はひたすら懐かしいですね。この曲をリリースした13年前は辛うじて20代だったんじゃないかな。今回この曲のアレンジは、チェロとピアノというシンプルな構成です。定位はプロデューサー兼エンジニアの橋本まさしさんに作っていただきましたが、音量のバランスは私がフェーダーを触らせていただきました。
 Pure3は是非SACDトラックを聴いて欲しいですね。リバーブ感、空気感、ホールの広さ、響きを体験して欲しい。
公開した定位マップを照らし合わせて楽しむ場合は、ヘッドホンでは難しいのかもしれません。定位は正面から出てきた音がミックスされて初めて現れるから。いいスピーカー環境で聴ける人は、定位マップを見ながらご自身の環境が大丈夫かどうかを見ていただければ(笑)。このマップはエンジニアの橋本さんに監修していただいておりますので、このマップのように聞こえるのが正解です。もし”ずれ”があったり”にじみ”があれば、まだまだセッティングで追い込んでいける環境だと思います。
この定位マップを正確にバシッと楽しみたい人は、SACDトラックがおすすめです。今回アナログレコードとCDトラックとSACDトラックの3つ選択肢がありますが、定位がしっかり出ているかどうかのチェックはSACDかなと。アナログはアナログの良さがあるのですが、楽器の音同士がにじんで結合して一つの塊として出てくる感じがあるように思います。それに対してデジタルはかなり分離がいい。
SACDは空気感がよく表現されているのですが、防音室のような場所でないと日常の空気や小さい換気扇の音、そばで動いているPCのファンの音があるだけでその空気感が消されてしまうので、少し感じていただくのが難しいかもしれません。
 
04 時の魔法
これは最初、アレンジャー兼プレイヤーの小林俊太郎さんがご自身で事前に譜面に起こされたものをホールで弾いていただいたのですが、その演奏が“なんだか間延びをしていて退屈だなぁ”というお話をして、数テイク録音した後、俊太郎さんが「自由に弾いていいですか?」とおっしゃって、「時の魔法」のメロディを追っかけながら自由に弾いていただいたのが、今回収録したテイクです。具体的に何がっていう説明はできないですが、それまでのテイクよりも明らかに情感があり豊かな感じがしました。ラストテイクで出た奇跡です。この音源は結構好きです。録音の時の照明もピンスポットだけにしたりして、雰囲気もつくりましたね。この音源は俊太郎さんの録音時の雰囲気がそのままサウンドに出ていると思います。真っ暗の部屋に電球が一個だけ薄暗くついている雰囲気が合うようになっています。
マスタリングエンジニアの鈴木さんのマスタリングもすごく綺麗に仕上げていただいているので、非常にいい感じです。
 
05 POWDER SNOW
出だしは夕焼けの雰囲気ですね。独りの夕焼け。この曲はスタジオで制作をしたこともあって、音源的に現代的な要素としての面白さいうか遊び心を入れてみました。チェロ、クラリネットが入ってくると空間が広がります。身近な小さい空間から大きいところへ積もっていく雪みたいなものを表現しているんです。
しかし、私の作る曲は寂しい曲が多いなぁ(笑)。楽曲の後半はシチューを食べたくなってくるんですよね。煙突から煙が出てるイメージで小屋に帰ってあったまろうっていう感じがすごくします。寒さと温さが混在しているんですよね。
 
06 Free and Dream
これは完全に遊びですね。ずっと1曲目からのテイストでやっていると疲れてしまうので、ひとつ違うテイストを入れてみようということで、ちょっと車のCMっぽいですよね。
この音源の定位をちゃんと聞こえる人の環境は相当分離がいいのではないでしょうか。環境的にバシッと決まっているんじゃないかな。
この曲はチェロの方がすごく苦戦されていました。あまりにも強く弓を弾きすぎるので、楽器が壊れそうだと思っていました(笑)。
定位マップの16分音符は3か所出てくるダブルストップ部分を表しています。この音がぎゅっと中央に位置しているということです。
 
07 君をのせて
この順番で聴いていると、録音した場所の違いってすぐ判りますね。スタジオ制作の2曲からホールでの録音に変わりました。こういうスタジオの音、ホールの音、大編成のストリングスの音という箱の違いを感じていただけるとおもしろいと思います。
この曲も思いっきり悲しい雰囲気やなぁ(汗)。
先ほどのTr.03「ありがとう」とは逆でバイオリンが左にいます。
レコーディングのマイキングに関してですが、それぞれの楽器のオンマイクと、指揮者の位置のマイク(近いオフ)と客席の吊りマイク(遠いオフ)の2つがあって、それをミックスしています。場所によって聞こえが異なる音を複数足して音をミックスしています。音というよりも空気層をミックスしている、つまりリバーブ感を調整しているって感じです。それでも根本的なホールの音はしています。
 
08 ヒトリ
このダブルカルテットは北京でレコーディングしました。アルパは日本のスタジオでの録音です。アルパはすごく音が綺麗で、演奏者もめちゃめちゃよかったです。色々な楽器の要素がいっぱい混ざっていると感じました。ギターであったり、ハープっぽさもあったり、弦のピッチカート的な要素もあったり。アルパってすごく面白い楽器だなって思いました。アルパのアルバムを買う人でない限り、これだけアルパをフィーチャーした音源は面白いんじゃないかなと思います。とてもウォームな感じに印象がひっぱられますよね。
 
09 さよならのこと
シンプルに感情豊かな楽器のみの構成で聴くと、自分がいかに寂しいメロしか書いていないかって感じがすごくします。さみしい曲ばっかりだな…。この曲はTVアニメ『WHITE ALBUM2』のアニメのために書き下ろした曲ですから。学園祭の後のシーンが思い出されます。
 
10 キミガタメ
きました、「キミガタメ」。これも当初考えていませんでしたが、ゲームとアニメの両方で使ってしまいました(笑)。Pure3を作っておいてよかったと思うことが多いですね、『WHITE ALBUM2』しかり、『うたわれるもの』しかり。
この曲は大編成です。北京でストリングスが8-8-6-4-3の29人とホルン4人、オーボエ、ファゴット、ティンパニー、スネア、シンバル2人、俊太郎さんのピアノで総勢40人の壮大な大河を思わすイメージで作成しました。中国のミュージシャンの感性なんでしょうか、クリックがなっているにもかかわらず3拍目が微妙に長くて4拍目が微妙に短いっていうリズム感を感じてもらったら面白いと思います。「キミガタメ」という曲にはよかったのだけど、楽曲が独特のグルーブ感にもっていかれているなってのがありますね。
あとこの曲が一番音のダイナミクスが大きいです。ダイナミクスが大きすぎてサントラCDやゲームでは全部ダイナミクスを小さく書き換えており、下の音の太さとか高域の空気の伸びとかも全然入っていないです。SACDで聴いていただかないとこの音圧感、空間の大きさ、音の小さいところ、大きいところの表現が伝わらないので、一番SACDになって聴いてもらいたい目玉です。
 
11 closing
この「closing」もSACDは初めてです。「キミガタメ」とこの2曲に関してはダイナミクスがすごく大きいので、是非聴ける環境がある人はSACDかアナログを聴いて欲しいなと思います。
「キミガタメ」が壮大感を演出するために、ホールらしい大きさを出そうというコンセプトがありました、それに対して「closing」はタイト目に。原曲が劇的な現代ドラマの終りを表現していた曲なので、ドライでタイトなオーケストレーションにもっていくというのがありました。もう一つ違うのはピアノの距離感です。「closing」の方がピアノが前に出てきています。これは『WHITE ALBUM2 幸せの向こう側』の中で「clôture」としてかずさが曜子の聴きたいピアノコンチェルトとして演奏しているシーンで使用しました。「キミガタメ」と比べると壮大だけどもうちょっとソリッドな雰囲気を出しています。そういうところも楽しんでください。